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仙台高等裁判所 昭和52年(ネ)165号 判決

控訴人

株式会社もりおか新聞社

右代表者

上田武夫

右訴訟代理人

中村潤吉

被控訴人

佐藤敏

右訴訟代理人

大沢三郎

被控訴人

青山甚吾

被控訴人

菊池一郎

主文

原判決を取消す。

本件を盛岡地方裁判所に差戻す。

事実《省略》

理由

一本件記録によれば、原審における訴訟の経過は次のとおりである。

1  原告佐藤敏(被控訴人)、被告青山甚吾(被控訴人)、被告菊池一郎(被控訴人)間の盛岡地方裁判所昭和四一年(ワ)第一二〇号土地所有権移転登記抹消登記手続等請求事件において、原告佐藤敏は「被告らは、原告が本件土地につき盛岡地方法務局昭和四一年三月一四日受付第五八二三号で移転付記登記を受けた同年一月五日受付第一八号所有権移転請求権仮登記の本登記手続をすることを承諾せよ。被告青山は原告に対し本件土地につき同法務局昭和四一年三月二日受付第四九五二号をもつてした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被告青山は右土地に立入り、土地を掘さくし又は第三者をして掘さくさせてはならず、右地内に設けた掘さく設備を撤去しなければならない。被告菊池は原告に対し右土地につき同法務局昭和四一年二月一七日受付第三六三九号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。」との判決を求め、その請求原因として「本件土地は訴外金敬芳の所有であつたところ、昭和四一年一月四日訴外坪谷勝登との間の売買予約に基づき、同年一月五日右坪谷のため所有権移転仮登記が経由され、原告は坪谷の右売買予約上の地位を譲り受け、同年三月一四日右仮登記移転の付記登記を経由し、右売買予約の完結により、坪谷から仮登記に基づく本登記手続の承諾を得たが、本件土地には被告らのため請求の趣旨第二項第四項掲記の各登記がなされているので、不動産登記法第一〇五条第一項、第一四六条に基づき被告らに対し前記仮登記につき本登記手続をすることの承諾と右各登記の抹消登記手続を求め、被告青山に対しては請求の趣旨第三項のとおり所有権妨害排除、予防を求める。」と主張した。

2  右訴訟事件の被告青山甚吾(被控訴人)は同事件の原告佐藤敏(被控訴人)に対し同裁判所昭和四二年(ワ)第一八号反訴事件を提起し、「被告(反訴原告)青山が本件土地を含む盛岡市繋字湯ノ館九七番の一原野一反歩につき岩手県観第一四四号登録による温泉専用権を有することを確認する。原告(反訴被告)佐藤は被告(反訴原告)の右温泉専用権の行使を妨害してはならない。」との判決を求め、その請求原因として「被告(反訴原告)は本訴において本件土地の所有権帰属を争つているが、仮に本件土地所有権取得の対抗要件において欠くるところがあるとしても、訴外もりおか新聞社は該土地所有者訴外藤本理八から本件土地使用承諾を得て、岩手県知事に対し温泉法第三条の規定に基づき温泉をゆう出させる目的で土地を掘さくすることの許可を申請し、昭和三九年七月三日岩手県指令三七商第五七四号による岩手県知事の許可を得、同年一一月一六日掘さくに着手し、昭和四一年五月一九日までの間に深度二七四メートルにおいて温度摂氏四六度、ゆう出量毎分一二〇〇リットルの温泉のゆう出をみたので、掘さく工事終了の届出をし、同年五月二一日岩手県観第一四四号温泉登録をしたところ、被告(反訴原告)青山は訴外上田武夫と共同して昭和四一年五月二六日もりおか新聞社より右温泉専用権の譲渡を受け、温泉利用に関する設備を施し、爾来右温泉を自家用ならびに公衆浴場用として利用してきているものであり、温泉利用権は土地所有権とは別個の物権的な用役権である。」と主張した。

3  株式会社もりおか新聞社(控訴人)は右本訴ならびに反訴係属中の昭和四二年五月二四日、右事件の原告(反訴被告)佐藤敏、被告(反訴原告)青山甚吾、被告菊池一郎を相手方として当事者参加の申立をした(盛岡地方裁判所昭和四二年(ワ)第一一七号事件)。参加請求の趣旨および参加請求の原因は原判決事実摘示の当該部分記載のとおりである。(右参加申立書は同年五月三〇日原告おおよび被告ら各訴訟代理人に送達され、同年七月三日の原審第一〇回口頭弁論期日に陳述されている。)

4  しかるところ、右各事件の昭和五一年一月二六日の口頭弁論(和解)期日において、原告(反訴被告)佐藤敏、被告(反訴原告)青山甚吾、被告菊池一郎、利害関係人株式会社丸信(以下「丸信」という)、同岩手三菱自動車販売株式会社(以下「岩手三菱」という)間に左のとおりの訴訟上の和解が成立し、右本訴ならびに反訴事件は訴訟終了となつた。(右の期日は参加代理人にも告知されているが、参加人および代理人とも欠席している。)

(一)  本件土地が原告の所有であることを確認する。

(二)  被告らおよび利害関係人らは原告に対し、右土地につき盛岡地方法務局昭和四一年三月一四日受付第五八二三号で移転付記登記を経た同年一月五日受付第一八号所有権移転請求権仮登記の本登記手続をすることを承諾する。

(三)  右土地につき

(1) 被告菊池は同法務局昭和四一年二月一七日受付第三六三九号をもつてした所有権移転登記の

(2) 被告青山は同法務局同年三月二日受付第四九五二号および昭和四七年二月七日受付第三七四七号をもつてそれぞれ所有権移転登記の

(3) 利害関係人岩手三菱は同法務局昭和四六年三月五日受付第六三六〇号をもつてした所有権移転登記の

(4) 利害関係人丸信は同法務局昭和四八年一一月一九日受付第四一七二二号をもつてした所有権移転登記の

各抹消登記手続をする。

(四)  右土地から湧出する温泉は原告の権利に属することを確認し、被告青山は昭和五一年二月一五日までに原告に対し温泉権の登録手続をする。

(五)  〈以下省略〉

二前記訴訟の目的は、本訴においては原告佐藤の被告青山、同菊池に対する本件土地所有権移転登記抹消登記手続請求権の存否および被告青山に対する原告佐藤の本件土地所有権に基づく妨害排除請求権の存否であるが、その前提たる権利関係として原告の本件土地に対する所有権の存否が争いとなつていることが明らかである。原告佐藤は右前掲たる権利関係の存否につき中間確認の訴を提起しなかつたが、前記訴訟上の和解において本件土地の所有権が原告佐藤に属することが確認されたのであるから、右中間確認の訴が提起された場合と同等である。

右の前提たる権利関係の如何によつて本訴の勝敗の帰すうが決せられるのであるから、本件土地の所有権の帰属も前記訴訟の目的たるものといわなければならない。しかして参加人(控訴人)は、本件土地の所有権が参加人に属することの確認を求めて前記訴訟たる当事者参加したのであるから、右の権利関係は原告、被告、参加人の間において合一にのみ確定されなければならないことが明らかである(民事訴訟法第七一条、第六二条)。

すなわち当事者参加がなされたのちは、既存訴訟の二当事者間で訴訟の目的を処分する訴訟行為(請求の認諾、放棄もしくは訴訟上の和解)をしても、当事者参加人に対して効力を生じないものである。もとより、当該請求の放棄、認諾もしくは訴訟上の和解の内容が、必ずしも当事者参加人にとつて不利益とはいえない場合もありえようが、請求の放棄、認諾もしくは訴訟上の和解が調書に記載されれば、その限度で当該訴訟は終了するとともに、その記載は確定判決と同一の効力を有することになり、三当事者間の紛争を矛盾なく解決すべき当事者参加訴訟の構造を無に帰せしめるからである。ただ、当事者参加の申立があつたのちでも、本訴被告および当事者参加人の同意あるときは本訴の取下をすることは許されるものというべく、この場合には参加訴訟は参加人と本訴原告および参加人と本訴被告間の通常共同訴訟として残存することになる。

参加人(控訴人)は前記既存訴訟の二当事者間での訴訟上の和解成立に同意していないのであるから、右訴訟上の和解は訴訟の目的に関する部分について効力を生ぜず、これについて訴訟終了の効力も生じえないものといわなければならない。したがつて原審が参加人の既存訴訟の原告および被告に対する参加請求についてのみ判決したことは、判決の手続が法律に違背したことになる。

三よつて本件の本訴、反訴および当事者参加事件につき権利関係の合一性確定をなさしめるため、原判決を取消して本件を盛岡地方裁判所に差戻すこととし、民事訴訟法第三八七条、第三八九条を適用して主文のとおり判決する。

(田中恒朗 武田半次郎 小林啓二)

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